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サモンナイト2より。
マグナ×リューグ。(パラレル)

彼と初めて出逢ったのは、いつだっただろうか。
偶々兄のお見舞いに来ていて、帰り際に声をかけられた。

『あの、落としましたよ』

驚いて振り返れば、蒼い財布を持った少年がひとり。
確かにそれは自分のもので、中身は今月の生活費が丸々入っている。
つまり大袈裟にいえばそれは命のようなものであったわけだが、正直その時は財布など全く目に入っていなかった。
印象的だったのは、笑顔。白い監獄には似つかわしくない、溢れんばかりの輝かしさを放っていた。



彼の病は、日に日に身体を蝕んでいった。
治療法など無い、ただただゆっくりと死に近づいていく。
そう説明してくれた彼は、やはり笑顔だった。

「けどさ、リューグとこうして出逢えたんだから、俺の人生も捨てたもんじゃないよな」
「・・・・・・馬鹿か、お前」
「なっ、酷いな!?俺は真面目にいってるんだぜ!」
「わかったわかった」

剥れる彼に軽く返事を返しながら思う。
こんな自分と出逢えたことが、本当に幸運だったのだろうか。
我ながら何の価値もない、つまらない人間だという自覚はある―――否、そもそも人間ですらない。
それでもこの時間が大切で、失いたくないものだったのだ。
約束なんていらない、そこにいけばいつだって待っていてくれた。
けれどもう、扉の向こうには誰もいやしないのだ。




運命はなんて残酷なのかと、銃を突き付けながら思う。
眼前にいる彼は、いつもの笑みを曇らせて憎しみに満ちた目でこちらを睨んでいた。
ずきりと胸が痛む。やっと、普通の幸せに触れられたと思っていたのに。

「どうして・・・殺したんだよ・・・・・・俺の、俺のっ!?」
「仕方なかったんだよ、あいつはっ・・・」
「うるさいっっ、いい訳なんか聞きたくない!」

彼の銃口も、ゆっくりとこちらを向く。
一瞬、このまま死んでもいいかもしれないという思いが頭を過ぎる。
だがそんなものは馬鹿げた考えだ。自分がいまここで死ぬわけにはいかない。
何か、何か他に方法はないのだろうか。
引き金に手を掛けながらも、絶え間なく思考を巡らす。
この一発を放てば、彼は間違いなく最悪な形で救われる。
普通に生きて、当り前の日常を手にすることができる。

「さよなら、リューグ」

彼の唇が動くと同時に、一筋の涙が零れる。
ああ、本当にこれでさよならだ。
生きてほしいなんて、偽善じみた願いなんかじゃない。
この状況から逃げ出したい一心で、オレは引き金を絞った。





「どうしたの、リューグ。こんなところに突っ立って」

聞きなれた声に振り返ればそこにいたのはやはり兄で、小さく笑みを浮かべる。
別に何もないという意味をこめて、ゆるゆると首を振った。

「ただ通りかかっただけだ。兄貴こそ出歩いて大丈夫なのかよ?」
「うん、今日は調子いいみたいだから。ごめんね、心配掛けて」
「そう思うんだったら、さっさと病室戻れ」

ぐいぐいと兄を急き立てるように押すと、分かったよと苦笑交じりの返事が返ってくる。
本当は、一刻も早くこの場を立ち去りたかっただけだ。
きっともう、約束をしたところで待ち合わせは成立しない。
思わず溢れそうになったものを必死に押し留めていると、そういえばなんて兄の呑気な声が響いた。

「さっきの病室の人、退院したんだってね」
「っ・・・」
「リューグ?」
「あ、いや。そうなのか、難病だって聞いてたから驚いただけだ」
「ああ、知ってたんだ。だから病院中奇跡が起きたんだって大騒ぎだったんだよ」
「奇跡、か」

あれは、そんなものではない。
むしろ対極に位置するのではないかと、常々思っているのだ。
まさかここで本当のことなど言えるはずもないし、真実など自分ひとりの胸に締まっておけばよい。

「でも、よかったよ」
「は?なにがだよ?」
「あそこの患者さん、いまは元気になって学校とか探してるんだって。すっごく喜んでたって聞いた」

にこにこと嬉しそうに話す兄の言葉を、ひと言ひと言ゆっくり噛み締める。
例えそれが最悪の形だったとしても、自分のなかに永遠に罪の重しが圧し掛かっていくのだとしても。

「そう、か・・・よかったじゃねぇか」
「うん、本当にね」

弱い心が逃げ込んだだけの、奇跡。
もう戻らない日常を思って、ゆっくりと後ろを振り返った。
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