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おおきく振りかぶってより。
三橋←サカ+ミズ。
溜め息が、ひとつ落ちる。
今日何度目かも分からない、いや、あれから幾度となく漏れるそれは、
最早癖のようなものなのかもしれない。
「栄口ってばまた溜め息ー?」
妙に間延びした、自分にとっては耳触りにしかならない声。
わざわざ振り返る必要も、ましてや義理もなかったのだけど、それでも足を止めてしまった俺は、
やっぱり「イイヒト」である。
「・・・なにかよう、水谷」
「うわぁ、栄口ってば露骨に嫌な顔じゃん。オレ傷ついちゃうよー?」
そんな、ヘラヘラした顔で言われたってなんの説得力もない。
思ったのに口にしなかったのは、無意味だからにほかならない。
こんなやつ相手に、限りある時間と体力の無駄遣いはしたくないのだ。いくら俺でも。
「で、なんなの?」
まあ、大凡の見当はついているんだけど。
水谷は話題を無視されたことを気にした風もなく、ニヘラと笑った。
「奪っちゃえばいいのに。そんな顔してるくらいなら」
「・・・そんな、見るに堪えない顔をしているつもりはないんだけどね」
「あれー、そうなの?いっかい鏡見たほうがいいよ?」
あっけらかんと、水谷はそんなことを言ってのける。
ああ、失敗した。
こいつとの言葉遊びは、時間と体力の無駄だと分かっていたはずなのに。
「幸せなら、オレはそれでいいんだよ。笑っていてくれれば」
たとえ俺が笑えなくなったとしても。
そんなこと、たいしたことじゃないから。
「まあ、栄口ならそういうと思ってたけどさ」
言って、水谷はくすりと嗤った。
「オレは傍観してるつもりは更々ないから」
「あの子の幸せを壊すつもり?」
「え、壊さないよ?だって、オレがいまよりずーっと幸せにしてあげればいいんでしょ?」
「・・・水谷が、あいつより幸せにできるとは到底思えない」
「栄口ってばさっきから酷くなーい?もうっ」
お互いに冗談を言い合っているようでいて、実際はそんな雰囲気とはほど遠い。
俺は静かに、息を吐いた。
「容赦しないよ、そんなことする気だったら」
ピリッと、その場の空気が歪む。
そんな俺たちを馬鹿にするように、爽やかな風が一陣、通り抜けていった。
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