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おおきく振りかぶってより。
泉×三橋。(パラレル)

一匹の金魚を拾った。
いや、金魚を拾ったという言い方は適切でないのかもしれない。
それでも他に言いようもないのだから、仕方がないではないか。
つらつらとそんなことを考えながら、ふと“それ”を目にうつした。

ゆらゆらと泳ぐ、金魚。

家に水槽なんてものがあったことにも驚きだが、この金魚の生命力にも驚きだった。
学校から家に戻ってきたら、紅い何かがぴちぴちと飛び跳ねているではないか。
けれどぴちぴちという形容詞が当てはまるかも疑問なほど、その何かは今にも息絶えそうだった。

「・・・金魚?」

よく見ればそれは、あの縁日などでお馴染みの金魚で、だがそれが何故こんなところにいるのか。
わけが分からなくて、それでもぼんやりと思ったのはただ綺麗だということだった。

よく考えれば、金魚に綺麗だなんていうのもおかしな話だ。
けれどこの状況事態がおかしなものなんだから、多少変な思考になってしまうのも仕方がない。
落ち着いた後で、そんな誰に言い訳するでもない言い訳を延々と考えていた。

「水・・・!」

兎に角その時はただ綺麗だと思って、次いで助けなければいけないと思った。
ここでこのまま死なせてはいけないと、いや、死んでほしくないと思った。
そのかいあってか、その金魚はいま、自室でゆらゆらと、取りあえずは元気そうに泳いでいた。

「よかったなー、おまえ。元気そうになって」

笑顔で話しかけながら、そっと水槽のそばまで近寄っていく。
取りあえず、名前でもつけた方がいいんだろうか?
いやでも犬猫じゃあるまいし、金魚に名前とか必要なんだろうか?

「んー・・・わっかんねぇなぁ。でも生き物だしやっぱ必要か?」

暫く考えて、すっと金魚を目にうつす。
なんとなく自分が傍に寄っておどおどしていたような金魚は、
遠く離れた場所からこちらを見つめていた。少なくとも、泉自身はそんな気がしていたのだ。
だからかもしれない。

「・・・おまえ、なんて名前?」

そんな、馬鹿げた質問をしてしまったのは。
口に出してしまってから、ハッとする。
何を、何をイっちゃってる発言をしちまってるんですかオレは!

「あー、もう。やめだ、やめだ」

誰が聞いているわけでもないのに、気恥ずかしさで顔が熱くなる。
名前は明日にでも考えるとして、今日はもう何もせずに寝てしまおう。
そう思って、くるりと後ろを振り返ろうとしたその時だった。

『・・・し、・・・・・・ん』

どこからか、声が聞こえた。
そんなわけない、ここには自分しかいない。いるとしたらそれはあの金魚だけだ。
馬鹿げている。それこそありえないではないか。
本当に今日はどうかしている。疲れているのだろうか。
頭では確かにそう考えていたのに、体は何故かそのままベッドにいくことを拒んで。
その目を、再び水槽へと向けた。

「・・・え?」

呟きが、声になったのかは分からない。
ただ驚くほど近くに、あの金魚が迫ってきていた。
こつんと、その金魚が水槽にぶつかる。それはちょうど、泉の唇のあたりで。

(お、おい?これってキス、か・・・って、いやまてオレ。金魚とキスも何もないだろう!
そうこいつは金魚だ。ただの金魚・・・・・・ああ、なんでオレはこんな動揺してんだよ!?)

自分の思考を理解できないままに、ただ体だけが熱くなっていく。
取りあえずもう一度金魚の様子を見ようと思ったその瞬間、

「っな!?」

辺りが真っ白に輝き始める。
その強すぎる光に、目も開けていられなくなってぎゅっと目を閉じる。
今日は本当に分からないことだらけだ。
あの金魚も。この光も。何より、自分自身の感情も。

「あ、のっ・・・」

自分のものでない、どこか弱気な声に呼び掛けられてゆっくりと目を開ける。
見開いた世界に、泉は愕然とした。

そこにいたのは少年だった。
自分と同じか、おそらくは少し年下であろうか。
何も身に着けていない肌は白く透き通り、けれどほんのりと朱に染まっていた。

「お、おれ、三橋、廉って・・・いい、ま、す」

泉と目が合うと、その少年は控えめにそう名乗る。
そしてがばっと、勢いよく頭を下げた。

「たったすけて、くれ、て。ありがと、う、ございました!」

言葉の意味を掴みかねて、泉は脳みそをフル回転させる。
自分には、目の前のこの少年を助けた記憶などこれっぽっちもない。
そう、例えばあの金魚なら助けたと言えるかもしれないが。
思いつつ、なんとはなしに少年の後ろにあるはずの水槽に目を向ける。
それはただの現実逃避だったのかもしれないが、しかし。

「・・・・・・マジ、かよ」

そこにあったのは、ゆらりと水面が揺れる空の水槽。
小さな呟きは、泉の頭のなかをぐるぐると回っていた。

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