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水谷+花井。
じりじりと、耳障りなセミの鳴き声が入り込んでくる。
窓を開けても風なんて吹いていないのだから、やはりこれは失敗だったかもしれない。
はぁっとらしくない溜息をつきつつ、ぐでっと窓の外に上半身を投げ出した。
その眼に映るのは、青く蒼い空。
「ねぇ、夜空もアオゾラなのかなー」
「はあ?」
唐突に問いかけられた声に、花井が顔をあげる。
夜空が青空?なんじゃそりゃ。
さっぱりわけが分からずに、花井は怪訝そうに眉根を寄せた。
「空はアオいし、じゃあやっぱ夜空もアオゾラってことで・・・んー?」
「お、おい。水谷?」
「あれ、でもそれってなんか変?んん、アオって何色だっけ?」
「青は青だろうが!」
話しかけているというよりは、最早独り言と変わらない水谷の呟きにも律儀にツッコむ花井。
するとけらけらと、水谷の笑い声が響いた。
今度は何なのかと、花井は心底げんなりする。
「じゃあやっぱ、夜空もアオゾラでしょ」
今の会話で何故そういう結論に達したのか。
決して暑さのせいだけでなく、くらくらとする頭を抱えて花井は小さく呻いた。
「昼は青空でー、夜は蒼空なんだね」
「同じじゃないのか、それ」
「違うよ、青と蒼だもん」
「・・・・・・そうか」
もうまともな会話をすることは困難だと思って、花井は投げやり気味に返事を返す。
そもそも、水谷は初めから誰かの返答など求めていなかったのかもしれない。
ちらとそんなことが過ったが、実際そうだったら虚しすぎるので努めて気にしないようにした。
「・・・・・・ずっと、蒼空のままだったらいいのに」
そんなとき、突如聞こえた水谷の声。
小さく呟かれたそれは、あまりにも弱々しく、果敢無い。
このまま消えてしまうんじゃないかと、そんな風にさえ思う。
水谷、そう声を掛けるべきかどうか迷って、結局何も言わずに唇を閉ざした。
「朝なんか、こなければいいんだ。そうすれば・・・」
そのあと、水谷がなんと続けたのかは分からない。
窓の外に身を投げ出しているせいで、表情も確認することはできなかった。
ふうっと、花井は小さく息をついた。
水谷が何を思っているのか、考えているのか、花井には分からない。
だが、分からないからこそ。
「おら、水谷!いつまでもだらけてんなよ」
「へぅ?」
「こんな暑さにまいってるようじゃ、これからの部活やってけねぇぞ」
窓の外の水谷を引っ張り出して、無理やり立たせる。
するときょとんとした顔の水谷と目が合って、次の瞬間にはぶはっと盛大に噴き出された。
「あっははははは!はな、花井~・・・くくっ・・・」
「お、おい!なに笑ってんだよ、オレはな!」
元来の短気さから花井が語気を荒げかけたのを、水谷が片手をあげて制止する。
ごめんごめんと、謝りながら目尻の涙を拭う。
「さすが主将だなーって思っただけなんだから、そんな怒んないでよ」
「それで大笑いされる意味がわかんねぇんだけど」
「まあまあ、気にしたら負けだって」
そう言ってへらへらと笑う水谷は、まったくの普段通りで。
まあいいかと、花井はこっそりと笑みを浮かべたのだった。